200万円を脅し取る
アデランスの顧客名簿を手に入れた男2人が、それをタネにアデランスから200万円を脅し取った。
そして、1986年10月29日、この男2人が恐喝容疑で逮捕された。
犯人は、福岡県選出の国会議員(参議院議員)秘書と元TBS社員
容疑者は以下の2人。
(1)A:福岡県選出の国会議員(参議院議員)の秘書。アングラ雑誌(廃刊済み)の社長。当時50歳。
(2)B:同じ雑誌の営業部長(元TBSディレクター、当時52歳)だ。
逮捕したのは、警視庁捜査4課と四谷署。
社員が在職中に盗む
逮捕容疑や民事訴訟の判決によると、元TBSの男Bは1985年(昭和60年)3月ごろ、アデランスの名簿を入手した。
名簿は、アデランス社員が在職中に盗み出したものだった。
関東の顧客1万2000人分
顧客1万2000人分だった。
コピー約400枚。
顧客名簿は関東地区の台帳の一部だった。
住所、氏名、電話番号など個人情報
住所、氏名、電話番号など個人情報が掲載されていた。
アデランスは原本を社内に分散して保管していた。
元TBSは、知人を通じてゲットした。見返りに300万円を支払った。
その後、アデランスに1200万円で買い戻すよう要求した。だが、失敗に終わった。
このため、議員秘書Aのところへ持ち込んだ。
社長室で金銭を要求
今度は2人で、東京・新宿区新宿3丁目のアデランス本社を訪れた。
1986年6月19日午後5時ごろだった。
社長室で当時の社長に対してアデランスの顧客名簿のコピーを示した。
当時のアデランス社長に対して「名簿を同業者に売られたら困るでしょう」などと持ち掛けた。
200万円を要求した。
政治献金
秘書は、この金を(参議院議員への)政治献金か後援会の入会金として受け取る、と強調した。
そのうえで、後援会名義の2枚の領収書と引き換えに、金を受領した。
会社側は名簿が漏れることによって利用客に迷惑がかかり、会社の信用が落ちることを恐れ、その場で現金200万円を手渡した。
被害発生から4カ月間、警察に被害届を出さず
アデランスは被害発生から4カ月間、警察に被害届を出していなかった。
かつらの客は、知られるのを嫌がる人が多い。
顧客のプライバシー保護は鉄則だ。
その弱みを突かれ、被害届の提出も遅れたようだ。
当時のアデランス広報のコメント
当時の新聞報道によると、アデランス広報課のコメントは以下の通り。
「お客様のプライバシーを守るため、やむを得ず現金を渡した」
一件落着と考えたが、その後、再び脅されたり、お客様にダイレクトメールが送られたりするのではないかとの心配が出てきたため、十分立件できるとの判断を得て警察に届けた」
東京地検は不起訴処分
東京地検は、2人を不起訴処分にした。このため、刑事裁判は行われなかった。
民事訴訟を提起
その後、アデランスがこの元秘書ら2人を相手取り、民事訴訟を起こした。被害金200万円の損害賠償を求めた。
東京地裁でアデランス全面勝訴
1989年2月3日、東京地裁民事35部が判決を言い渡した。判決は、アデランスの勝訴となった。
松本史郎裁判官が判決
判決を下したのは松本史郎裁判官。判決では、秘書ら2人が「共謀のうえ、公序良俗に著しく反する違法行為を行った」と明確に認定した。アデランス側の主張を全面的に認めた。
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